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False Island No600で参加中のフェンネルの備忘録。
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チャービルはフェンネルのお師匠さん。
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やったよ!やっと書き終わったよ!
ってか、ココ見るヒトいるのかな?
良いよ!もう、自己満足の世界だよ!

チョコをくれたヒト全員書いたよ!
たぶん、漏れはないはず。
あったら、ゴメンなさい。

性格・言葉遣い等の違いはご愛嬌と思ってください。
ハナで笑ってご容赦頂けるとありがたいです。

ちなみに登場は、Enoの逆順だよ!
御参考までに。


お借りした人達(敬称略)

ハーヌ・クローヴァー(66)
ルビィラ=リハウンド(68)
ブラン=ドゥブル=ドゥ=クーベル(175)
セレスタ=ストレガニカ(189)
瑠辺 燈茉(361)
蒼凪 零(439)
ミリィ・マリエット(456)
カレン・K・メイオール(498)
ハク=ヴェルナー(726)
カルセア・チズナ(891)
六道 葛(896)
比売雀(1145)
ラピスラズリ(1194)
レミィナ・アル・アザリ(1444)
夢猫ふれあ(1519)
忍冬柚葉(1689)
リゼット=クレイモールド(1728)
フィリス=フォートラン(1839)
オウミ・イタドリ(1917)



クラッティ・シザーハンズ(48)
Stella Hartnett(1115)



その他友情出演的な人達!
(名前出せなくてごめん!)


無駄に長いので要注意!


……何を返せば良いんだろう?
悩みが尽きない。
考えれば考えるほど、深みにはまっていく感覚に囚われる。
もらったチョコは全て、一般に『義理』と呼ばれるモノだ。
とは言え、義理にも礼儀で応えるべきだ!と、思う。


カタチとして残るモノ……いや、心に残るモノが良いんだろうな。
気分転換に、月刊ヒゲマニアをパラパラと眺める。
ふと、あるページに視線が釘付けとなった!
そこには、『必見!お返しギフトベスト5!!』の文字が。


第5位『月刊ヒゲマニア創刊号付録』
……マニアック過ぎる、パス。

第4位『マジ狩る鉄パイプ』
……探索には便利かもしれないけど、ナイよね。

第3位『花束』
……ちょっと大袈裟じゃないかなぁ。

第2位『アクセサリー』
……え、これ2位なんだ?

第1位は……!?

 

 

……僕は現実を知らない、ただの子供なのだろうか?

 

 

イヤ…コレだ!
きっと、コレなんだ。

 

 

『バレンタイン大作戦~三倍返しは忘れずに~ お返し編』

 

 

淡いクリーム色をした球状の物体を潰し、歪な円形が次々と作られる。
ちっこい人形が見守る中、フェンネルは黙々と作業を続けていた。

「よし、次……」

歪な円形に鉛色の小さな筒を押し付ける。
すると、そこにキレイな☆の形が抜き出された。
ちっこい人形もそれを真似して次々に型抜きしていく。

「店長!ヤキ入れまつか!!」
「そうだね。軽く焼いて、荒熱取って……」

ちっこい人形が色とりどりの物体を指差す。

「うん、わかってる。
 型抜きした所にそのキャンディーを入れてもう一度焼いて溶かす。
 キャンディーが固まれば完成……さ、仕上げちゃおう」

 

 

さて、どこから配り始めようか。
チョコをくれた人を指折り数えてみる。
……結構、多い。
悩んでいても仕方がない、か。
フェンネルは胸の前でぐっと拳を握った。

 

 

■コンビニにて(オウミさん)

「あ、フェンネルさん。お出かけ?」

コンビニを出たところで声をかけられた。
勇んで出陣!という場面で出鼻を挫かれ、フェンネルは思わず苦笑いを浮かべる。
しかし、その声の主がオウミであったことは、ラッキーだったと言えるだろう。

「オウミさん、これは良いところで♪」
「え……良いところって?」

困惑気味のオウミを店内に誘い入れると、フェンネルは小袋を手渡した。

「はい、これ。先日の焼きチョコのお返しです♪」

不意に小袋を渡され疑問符で満たされたような顔が納得したような笑顔に変わる。

「ありがとう。気をつかわせちゃったかな、ハハ」
「いえいえ、こちらこそお世話になってますから♪」
「道理で……店内が甘い香りがすると思ったら。さっきまで作っていたの?」
「えぇ、おまけのクッキー作りをね」
「おまけ……?」
「メインは別物で……『ある雑誌』に載ってたものを流用したんですけどね」

フェンネルは照れたように頭を掻いた。
オウミは『メイン』の存在が気になっていた。
嫌な予感がする意味で。

「あ、そうだ!オウミさん、まだ時間あります?」
「え、あ、うん……少しなら…」
「ホント!よかったぁ……」

フェンネルは安堵の溜息をついた。

「他の人にもお返しを配りたかったから!じゃ、店番ヨロシクお願いします!」
「え、ちょっと!店番って!?」

オウミの返事も待たず、フェンネルはさっさと店を飛び出した。
残されたオウミは、悩んでいた。
お返しとしてもらった小袋の中身を今見るべきか、どうかを。


■宝石店の前にて(フィスさん)

さて、勢いよく店を飛び出したまではよかったが、配るべき対象がいる場所に当てがない。
足を止め、周囲を見渡す。

「該当者ナシ……参ったなぁ。どうやって探そう……」

再度周りに視線を巡らせ、目の前の店が宝石屋だったことに今更気付いた。
確か2位だったな……と、雑誌の記事を思い出す。
と、その店から赤いリボンの女性――少女と言うべきか――が出てくるのが見えた。

「あれ……?お散歩ですか、フェンネルさん」

こちらが声をかけるより早く、この少女――フィリスが声をかけてきた。
チョコをくれたときの口ぶりから推察するに、フィリスはバレンタインという習慣を知らない。
いや、知らなかった、というべきだろうか。
そのフィリスが宝石屋から出てくる。
タイミングが悪かったか、と嫌な汗が出るのを感じた。

「えぇ、まぁ…そんなとこです。フィスさんは…お一人で?」
「そうだけど?」

何でそんな質問をされるのかわからないという雰囲気。

「魔術の媒介で使う宝石の調達にね」
「あ、そうだったんだ。ハハハ、なんか早とちりしちゃった……かな」
「早とちり、って?」
「あー、えっと…なんでもないよ、うん。あ、それよりも」

必死に誤魔化しつつ、フィリスに小袋を差し出す。
フィリスはそれを不思議そうに見ている。

「これ、先日のチョコのお返し。そういう……習慣だから♪」
「あ、ありがとうございます。ホントだったんだ……」

フィリスの表情がぱっと明るくなる。
どうやらホワイトデーの存在を既に誰かから聞いたらしい。

「じゃあ、僕は他にも行く所あるから」
「あ、はい。いってらっしゃい」

一連の習慣についての意味を知ったらどんな反応をするのかな?
フェンネルはそんなことを考えながら、その場を後にした。


■レストランにて(リゼさん)

「けしからん、ですの!」
「リゼット、落ち着いて……」

賑やかなレストラン。
おさげの少女と赤いマフラーの青年が向かい同士に座っているテーブル。

「乙女の敵ですのっ!」
「いや、誤解かもしれなi」
「誤解も六回もありませんの!」

おさげの少女はなにやら荒れている。
その声に気付いたフェンネルは、店内へと駆け込んだ。

「いらっしゃいませ~」

店員がにこやかに声をかけてくる。

「あ、実は人を探してて……」
「お一人様ですか~?」
「え、あ、えっと……一人は一人なんだけど…」
「どうぞ、御案内しま~す」
「御案内って……イヤ、あの…」
「ご新規一名様で~す!」
「イヤ!だから、あの……僕はお客じゃなくて……」

しどろもどろに説明をしつつ、フェンネルは店員の後についていく。

「あら……?フェンネルさん?」
「へ?」

振り返ってみると、おさげの少女――リゼットがいた。
向かいの席には、赤いマフラーをした男性の姿。
目当ての人のすぐ傍をいきなり通り過ぎていたらしい。

「あぁ、リゼさん。よかった!」
「……はい?どうしたんですの?」

赤いマフラーの男性に軽く一例し、リゼットに小袋を押し付けるように渡した。
リゼットは不思議そうに小袋に視線を落とす。
向かいの席にいる男性を気にしているのかもしれない。

「……フェンネルさん?あの、これは……」
「あ、お返しです。チョコの…」
「そんな、悪いですの……」
「みんなにお返ししてるから、悪いなんてことはないよ?」
「でも……」
「せっかくだから、二人で楽しんで」
「わかりましたの。ありがとうですの♪……ん?二人で?」
「そ、二人で」

と、そこに先程の店員が戻ってきた。
表情が少し険しくなっている気がする。

「あ、じゃ僕はこのへんで!」

フェンネルは脱兎の如く逃げ出した。
ふと、思う。
確か、「けしからん」って言ってた気がするけどなんだったんだろう?と。


■薬屋にて(ユズハさん)

このペースで持つんだろうか?
しかし、今のフェンネルには進むしか道はなかった。
とりあえず、今の手持ちは残り1袋。
普段なら簡単に見つけられる気がするのに、こういうときに限って見つけ難い。
難儀なもので、走り回り続けるのも限界がある。
フェンネルがしゃがみ込んで息を整えていると、ふと影が差し出された。
先程まで太陽の下にいたはずだが……。

「フェンネル殿。いかがされた?」

座り込んだまま見上げると、傘を差した女性の姿があった。
どうやら、差し出された影の正体はこの傘のようだ。

「あぁ、ユズハさん。ちょっと、探しモノをね」

フェンネルは立ち上がり、傘を指した女性――ユズハに一礼した。

「探しものかえ?それは難儀じゃのぉ」
「えぇ、でも……おかげで見つかりました」
「ほぉ、それは慶福じゃの」
「ユズハさんは、お買い物……あぁ、白衣ですか?」
「こらこら……まだ言うておるのか。やるとは言っておらんに…」
「だってココ……クスリ屋ですよね?」
「むぅ、なればクスリを買うのが王道じゃろぉ?」

ぽむと手を叩いて見せた。

「そうか、なるほど!」
「まったく……まぁ、気分が悪いようでなくてなによりじゃ」

そう言って、ユズハは傘を畳む。

「おぉ、本題をすっかり忘れる所でした!」
「本題?」
「えぇ、本題です。コレを、ユズハさんに。チョコのお礼です」

ユズハに小袋を差し出しつつ、笑顔を向ける。
差し出された小袋を怪訝そうに見ていたユズハだったが、お礼という単語に合点がいったらしい。

「なんと、わざわざ先日の礼に来てくれたのか……ご苦労様じゃのぉ」
「いえいえ、こちらこそご馳走さまでした」
「ありがたく頂戴しておくぞ」
「では、次があるから。このへんで!」
「うむ、気を付けて行かれるがよいぞ」

フェンネルは一礼してその場を立ち去った。


■再びコンビニにて(ふれあ)

フェンネルは手持ちのお返しがなくなったので一旦コンビニに戻ることにした。
戻ってみると、オウミがぬいぐるみに向かって話しかけている。

「……オウミ…さん?」

その声に驚いたように顔をあげる、オウミ。

「フッ、邪魔してるぜフェンネル」

ぬいぐるみ――アルワンが振り向く。

「あぁ、アルワンさん。ってことは、ふれあさんも……」
「フェンネル。最近商品の入荷ない。さぼってる」

アルワンの首辺りからニョキニョキとふれあが出てきた。

「え、いや…さぼってるわけじゃなくて……」

ふれあがゆっくりと首を左右に振る。

「フェンネル、ダメ。オトナノジジョウは便利な言葉。でも、ダメ」
「まだ何も言ってないよ!そ、そうだ…!」

このままじゃマズイと思ったフェンネルはさっさと行動に移すことにしたようだ。
奥にまとめて置いておいた小袋の山。
そこから小さな袋をいくつか持ってきて、一際小さな袋をふれあの前に差し出す。

「はい、これをどうぞ♪」
「こんなものでは誤魔化されない」
「イヤ、誤魔化すとかじゃなくて!チョコのお返しだよ!」
「……フェンネルは姐さんのアレを食べたのか…」
「お返し?」

ふれあはごそごそと袋を開けて中を覗きこんだ。
甘い香りがふれあの顔を包む。

「わかった。買収される」
「マテ」
「ハハハ、買収…じゃないんだけどなぁ」

フェンネルは苦笑交じりに呟いた。

「じゃ、僕はまた配りに行ってくるから。留守番ヨロシクね」
「わかった。行ってくると良い」

胸を反らせているふれあに手を振り、フェンネルは店を出た。
やり取りを眺めていただけだったオウミが慌てて声をあげる。

「ちょ!フェンネルさん……あの…僕は帰っても……」

オウミの声はフェンネルの耳には届かなかったようである。


■どこかのBARにて(檸檬さん)

闇雲に歩いても見つかるものじゃない。
意外なところにヒトはいるものだ。
例えば、ココ。あまり通う人もいないBAR。
フェンネルは扉を開け薄暗い店内に踏み入る。

店内にいる人は誰も彼もが闇を纏っているようで判然としない。
ブルースやジャズの流れるような雰囲気でもなく。
どちらかというと密談に向いている、そんな雰囲気だ。

「……」

入り口付近にいた女性がフェンネルに視線を向ける。
しかし、それも一瞬のこと。
グラスをもてあそびながら、目を伏せた。

フェンネルは、その女性――レミィナに近付き、横に包みを置く。
件のお返しが入ったものだ。

「これ、チョコのお返しです。ありがとう」
「……」

フェンネルの言葉に、レミィナは再度視線をあげる。
そこかしこに人を包みこむ小さな闇があり、その表情までは窺えない。
沈黙。
周囲のざわめきすら遠く聞こえる。

「あ、じゃあ……僕は、これで…」

フェンネルは出掛けに店主に耳打ちし、いくらかの酒代を握らせた。
扉の前で一度振り返ると、レミィナが軽く手を上げていた。
挨拶代わりといった感じで。

ほどなくして、レミィナの前にカクテルグラスが差し出される。
ラムとキュラソーとレモンジュースのシンプルなカクテル。
薄暗い闇の中で仄かに白く輝くグラスを眺め、レミィナは軽く頬を緩ませた。


■本屋にて(ラズさん)

もはや手当たり次第である。
フェンネルは店を一つ一つ回る覚悟で覗き見している。
傍から見るとかなり怪しい。
その甲斐あってか、ココでも一人見つけた。

「ラズさん!」

本を手に取りパラパラと捲っていた少女が顔をあげる。
物憂げな動作だが、負の感情には結びつかない。
一言で言えば、無。
表情ひとつ変えていない。

「――フェンネル。
興奮、脈拍上昇、血圧上昇、過呼吸――交換神経中枢刺激症状と酷似。
要因はクスリへの依存――」
「ちょ!ちょっと待って!いきなりそんな診断?」
「――嘘。相変わらずの反応」

いつもどおりだ。
フェンネルはこの少女に口で勝てない。
勝ち負けではないだろうが、どうにも遊ばれている。
フェンネルには遊ばれている自覚もナイのだが。

「そ、そんなことより。コレを」

そう言って、差し出すのは件の小袋。

「――甘い香り」
「そ、この先日のチョコのお返し」
「チョコ?――理解した。ひよりみ便特製チョコ(在庫処分)――」
「そそ、話が早くて助かる」

ラズは小袋を受け取ることもなく、手記を取り出しぱらぱらと捲る。

「え、あ、あの……」
「キャンデーの販売促進に結びつけ、全国飴菓子工業協同組合が「ホワイトデー」として催事化。
飴の材料である砂糖が白色だったため「白=ホワイト」から「ホワイトデー」と命名。
老舗菓子屋が、この日にバレンタインチョコのお返しとして、白いマシュマロを売り出した、とする説もある……」
「……へ、へぇ、流石に詳しいね」

と、視線を手記からフェンネルへと移すラズ。

「バレンタインデーのお返しは、3倍にして返すのが礼儀」

ラズの目がじっとフェンネルを見据える。
耐えられず、視線を外すフェンネル。

「……安物を配り、高価なお返しを期待するという現象が一時期認められた。
が、現在では、ホワイトデーに一切の返礼をしない男性もいる模様」

ラズはそこまで言うと、小袋を差し出したまま固まっていたフェンネルから小袋を受け取る。

「――言葉しか用意がないが、感謝」

相変わらず淡々とした口調だが心なしか楽しそうにも見受けられる。
気のせいかもしれない。

「じゃ、じゃあ……僕は他にも回らないといけないから」
「――うん、理解」

フェンネルが立ち去った後。
手記を取り出したラズが何を書いたのか。
フェンネルは知る由もなかった。


■裏路地にて(スズメさん)

「あ、フェンネルさんだー」

道を歩いていたら、不意に声をかけられた。
聞き覚えのある声のした方を向くと、黒いローブの人影。

「あぁ、スズメさん。こんなところで……」
「迷子じゃないですよ?」
「え、あ、えぇ……」
「ホントですよ!」
「わ、わかってますから……」

スズメの妙に迷子ではないことを強調しながら、フェンネルのワイシャツの袖を掴んだ。
フェンネルは掴まれた部位を見る。
スズメは誤魔化すように笑みを浮かべた。

「……えっと、ディンくんは…」
「今は、別行動しているだけで迷子じゃないんです!」

スズメは心なしか涙目になっているように見えなくもない。
袖は離してくれそうにない。

「ハハハ、なるほど。わかりました」
「わかってもらえれば良いのです、うん」
「それはそうと……はい、コレ」

フェンネルは小袋をひとつスズメに手渡した。
スズメはフェンネルの袖から手を離し、小袋を受け取る。

「なんです、これ?」
「お返しです。先日のチョコの」
「ふぇ?お、お返しですー……?」
「そ、お返し」
「ありがとうです、フェンネルさん」

そのとき遠くからスズメを呼ぶ声が聞こえた。

「おや、ディンくんが呼んでいるようですよ?」
「んむ?ディン君…あれ?なんであっち……から…?」
「さぁ、なんでかな?」

フェンネルは軽く手を振り、スズメの後姿を見送った。
スズメに掴まれていた袖を見やり、思わず苦笑するフェンネルであった。


■饂飩屋にて(つづらさん)

そろそろお腹がすいてきた。
イヤ、ホント。一日走り回れば空腹もひとしおだ。
そこへきて、味わい深い出汁の香りが漂えば……。

「おなかすいたな」

当然のように、フェンネルは立ち止まってしまった。
自らを奮い立たせるように前に進もうとするが、如何せん歩みが遅い。
というか、後ろ髪惹かれまくりである。

「っと、フェンネルさん。そんな所でヨダレを垂らしてはダメなのですよ」

椀を持った狐少女がのんきに声をかけてくる。
椀からは湯気が立ち昇り、いかにもできたてといわんばかりだ。

「美味しそうですね……つづらさん…」
「美味しいですよ」
「……きつね、ですか…」
「もちろん、きつねです」

話が進まない。
そうこうしているうちに、狐少女――つづらはうどんを食べきってしまったようだ。

「では、ちょっとした豆知識を」

狐少女――つづらは、頼んでもいないのに語り始めた。

「当方の島国のとある都市では、油揚げを乗せたうどんを単に『きつね』と称するのです」

先程まで『きつねうどん』が入っていたであろうどんぶりを掲げてみせる。
お腹がすいて思考がままならないフェンネル。

「油揚げを乗せたそばは『たぬき』となります」
「へぇ……」

フェンネルは適当に相槌を打つ。

「同じ島国の別の都市では一般に油揚げなどを乗せたうどんを『きつねうどん』、そばを『きつねそば』と称するんです。
他にも『しのだうどん』とか『しのだそば』とも呼ばれるんですよ」

フェンネルはますますお腹がすいてきた気がした。
つづらの説明は続く。

「いなり寿司のことを『きつね寿司』と言ったりもします。
油揚げを刻んでねぎと甘辛く煮て、ご飯に乗せるときつね丼……」
「……きつねといえば、油揚げなんだね?」
「そうです。でも、きつねうどんが一番ですよ」

これは拷問か。
お腹がすいているときに食べ物の話をするものじゃない。
食べ物。
何をしに来たんだ?
唐突に当初の目的を思い出したフェンネルは、小袋をつづらの目の前に差し出した。

「あ、……先日のチョコのお礼です」
「おぉ!ありがとうなのですよ~」
「残念ながら……中身は油揚げとは関係ありませんが…」
「いえいえ、お心づかいありがとうございますなのですよ~」
「じゃ、じゃあ……他にもいかなきゃならないから」
「いってらっしゃいですよ~」

つづらとわかれたフェンネルは思った。
どこか食べられるとこに行きたい、と。


■乾物屋にて(チズさん)

フェンネルの姿は、ココ乾物屋にあった。
なぜ、乾物屋か。
それはフェンネルにもわからない。
今では失敗したと思っている。
確かに乾物屋は食べ物を扱う。
その意味では正解だろう……が、すぐには食べらるわけではない。
フェンネルは膝から崩れ落ちた。

「干し葡萄とクコの実を……」

少女の声が聞こえる。

「それと、干し椎茸、干し貝柱……あ、きくらげもお願いします!」

どうやら、注文しているようだ。

「ところでフェンネルさん、そんなところで何をしてるんですか?
また干すと比べですか?」

唐突に声を掛けられた。
見上げるとそこに縦ロールの小柄な少女。

「…チズナさん……お腹がすいてしまって…」
「ここの乾物は美味しいですよ?」
「え、いや……そ、そうなんだ?」
「はい!私などでよければ、何か作りましょうか?試食がてら……」

ふとチズナの目が変わった気がした。
チズナから受け取ったチョコがフェンネルの脳裏に蘇る。
薬膳チョコ。
その味、食感が口の中に広がった気がした。
自然と冷や汗が滲む。

「ま、また機会があったら是非!そ、そんなことよりも!」

チズナに向かって慌てて小袋を差し出すフェンネル。

「あら、なんですか?」
「先日の薬膳チョコのお礼です。料理人さんに渡すには恥ずかしいもんですが……」
「恥ずかしい物なんですか?」
「あ、いえいえいえいえいえ!そうじゃなくって!」
「ふふふ、冗談ですよ。ありがたく頂きます」

冗談とは思えない笑顔だった。
チズナは底が知れないとフェンネルは思った。

「でも、ホントに宜しいんですか…試食。何なら今手持ちの…」
「あ!ほら、僕は他にも行かないとならないし!その…今度で!」
「そうですか。では、そのときを楽しみにしてますね!」
「は、はい!じゃ、じゃあ……」

慌てて、逃げるように…フェンネルは乾物屋をあとにした。


■またまたコンビニにて(ハクさん)

空腹で限界だ。
コンビにで何か食べよう、という思いに至った。
小袋も手元になくなっていたし丁度良かったのではあるが。
さて、何を食べようか……。

「ただいまぁ……」
「あ、フェンネルさん。おかえりー!」

入るなり、元気よく声を掛けられた。

「あぁ、ハクさんいらっしゃい……」
「頑張り過ぎないように、ほどほどにねー?」
「ありがとう」

何気なくメニューを眺める。
食べ物、食べ物……。
やっぱ、ステーキかな。お腹にたまるだろうし。

「あ、そうだ。ハクさんにも……」

奥の小袋の山からひとつ取り、ハクに手渡す。

「先日のチョコのお返し……」
「わっ!ありがとう!嬉しいな♪」

ハクはめっちゃ良い笑顔で喜びを表現している。
まわりにも元気を振り撒くかのようだ。
フェンネルはすぐさま奥へと引っ込む。

「ハクも買収された。コレで仲間」
「ちょ!姐さん!」
「買収されたってわけじゃないよ……たぶんね」

実はしっかりと店番をしてしまっているオウミとふれあ。

「あ、お二人も貰ったんですね~……ん?」

そのハクの鼻がひくひくと動く。

「あれ?なんだろう…なんか、香ばしい……?」
「あぁ、なんか料理してるみたいだよ?」

オウミが答えるというわけでもなく口にする。

「良いにおい」
「ですね……でも、なんとなく嫌な予感…」

ハクの予感は的中したのだろうか?
しばらくすると、フェンネルが皿を持って出てきた。

「いやぁ、配ってたらお腹すいちゃって。……今ステーキを」
「ちょ!ステーキって!え、えぇぇぇ!?」

皿の上には美味しそうなステーキ。

「ステーキなんて!ステーキなんて!うわあぁぁぁぁっぁぁん!!!!」

ハクは思いっきり外に飛び出していった。
目に涙が浮かんでいたのは気のせいだろうか。
きっと気のせい。

「あ、ハクさん……行っちゃった。お肉嫌いだったのかな?」

そのステーキは三人で美味しく頂きました。


■牧場にてにて(かれんさん)

なんで、牧場なんかがあるのか。
そんな疑問はとりあえず放っておこう。
フェンネルは牧場に迷い込んだ。
あたり一面、牛、牛、牛。
ここの名物は『新鮮な牛乳』で決まりだね。

「さすがに……誰もいないか」

牛を見て、一人佇むフェンネルであった。

「なに牛に見惚れてんスか?」

その声に慌てて振り返る。
そこには、牛乳瓶を握り締めた魔女っ子――かれんがいた。

「み、見惚れてなんかっ……」

フェンネルは慌てて弁明した。
顔を真っ赤にしながら。

「まぁ、良いじゃないっスか」

かれんは適当に手を振りつつ言う。

「何が良いのかわかんないよ!」
「大丈夫っス!アタシもよくわかんねっスから」
「まったく……」

フェンネルは盛大に溜息をつく。
かれんはポツリと呟いた。

「……やっぱり、大きい方が良いんスかね?」
「…え?大きさ……?」
「大きさは関係ないって言ってたフェンネルさんも見惚れてたっス」
「ちょ!だから、見惚れてないし!ってか、どこっ……」
「顔真っ赤っスよ?」

フェンネルは翻弄されていた。
いつもどおり。

「やっぱもう一本飲んでくるッス!」
「あ、かれんさん?」

フェンネルは、駆け出したかれんを慌てて呼び止める。

「なんスか?」
「っと、コレ……先日のチョコプリンのお返し…」
「おぉ!ありがとうっスー!」

フェンネルが差し出した小袋を受け取ると、かれんはえへへと笑った。

「じゃ、僕はコレで……」
「はい、気を付けていってらっしゃいっス!」
「かれんさんも気を付けて」
「がんばるッス」

フェンネルは駆け出すかれんを手を振って見送り、牧場をあとにした。


■大通りにて(ミリィさん)

人もまばらな大通り。
道の真ん中に少女が座り込んでいる。
というか、探し物をしているように見える。

「……私の眼鏡どこ!?」

盛大に転びでもしたのだろう。
フェンネルは道の端にきらりと光るものを見つけた。
おそらく少女が探している眼鏡であろう。
眼鏡を拾い上げると、少女に近付きそっと差し出す。

「はい、ミリィさん」
「ひゃっ!え、あ……ありがとうございます」

少女――ミリィは、受け取った眼鏡を掛け顔をあげた。

「あ、フェンネルさんでしたのね」
「怪我とかしてない?」
「えぇ、大丈夫。でも、何もないところで転んで…お恥ずかしい限りですわ……」
「ま、怪我がなくて何よりさ♪気をつけないとね」
「はいっ!気を付けますわ」

そう言うと、ミリィうふふと笑った。

「でも、ちょうどよかった。ミリィさんも探してたんだ」
「え、わたしを……ですか?何か御用でもあったかしら……」
「えぇ、先日のチョコのお礼を…」

差し出された小袋を見て、ミリィはオロオロしている。

「あっ、えっ、ええ!?よ、よろしいのかしら?」
「え、マズかったですか?」
「い、いえいえ!そんなことはございませんわ。ただ、びっくりして…」

ミリィは胸に手を当てて息を整えている。
少し大袈裟な気もするが、事実落ち着かせようと必死のようだ。
フェンネルもミリィが落ち着くのを大人しく待っている。

「そう?なら、よかった♪」
「えぇ、ありがたく頂きますわね。中は何かしら……」
「それは開けてのお楽しみ♪」
「うふふ、楽しみだわ」

楽しみにされるほどのことはないのだが、フェンネルはあえて何も言わない。
人の楽しみを奪うのも気がひける。

「さて、残りもう少しあるから。この辺で」
「あ、ごめんなさいっ…、私ったら引き止めてしまって…」
「大丈夫ですって。ミリィさんも転ばないように気を付けてね」
「は、はい!ありがとうございます!」

ミリィは何度もペコペコとお辞儀した。
フェンネルも一度お辞儀して、ミリィに背を向けた。


■港にて(零さん)

港、というにはあまりに辺鄙。
申し訳程度の桟橋。
狭い入り江には、船もなく静寂に包まれている。
寄せては返す波。
同じ波はない。

「……誰も、いるわけないか」

島への招待客、島からの退去者でちょっとした賑わいを見せるときもある。
だが今は、船の出入りがある時間でもない。

「ひょっとしたら……と思ったんだけどな」

フェンエンルは一人呟く。
受験のため、一時的に島を離れた一人の少女。
その少女から受け取ったと思われるチョコ。
“受け取ったと思われる”と曖昧な表現なのは、直接渡されていないためだ。
ちっこい人形が抱えてきたのだ。
チョコには手書きのメッセージが付いていた。
きっと島に一時的に戻ったのだろう。

「受験が終わるまでは戻るわけない、か」

諦めて、他所を当たろうと考えたとき。
ちっこい人形がフェンネルのパンツの裾を引っ張った。

「何?」

しきりと、何かを指差しているように見える。
その先にいたのは……。
一人の男。
件の少女の父親。
父親にしてはあまりに若すぎ、兄妹のように思えてしまう。
が、きちんと親子、らしい。

「そっか、預けておけば良いんだ」

フェンネルは男に駆け寄ると、小袋を押し付けた。

「ネギ哉さん!これ!」
「……店長さん…ネギ哉ではなく壱哉です」
「え、そうでしたっけ?」
「それになんですか……コレ?僕はそんな趣味は……」
「零さんへのお返しです。預かってください!」
「へ?あ、零に……食べ物ですか?腐りますよ?」
「腐ったらネギ哉さんのせいってことで、ひとつ」
「だ、だ、誰のせいですって?」
「じゃ、頼みました!」

押し付けられてしまった壱哉の運命や如何に!
フェンネルは、さっさとその場から立ち去った。
壱哉をその場に放っておいて。

その頃、遠く離れた地で零は――
欠伸をしていた。


■とある部屋にて(燈茉さん)

「ココ、か」

フェンネルは扉の前にいた。
ピンポイントでこの場所を見つけることができたのは幸運といって良い。

「マナさん、ありがとう」

思わず呟く。
事前にマナにココの事を聞かなければもっと走り回っていたことだろう。
マナに改めて感謝しつつ、フェンネルはドアをノックした。
……反応ナシ。
と、思ったら中から音が聞こえた。
おもちゃ箱か何かごちゃごちゃしたものを盛大にひっくり返したような。
そんな音。

「何か用かな?」

唐突にドアが開いて、中から男性のような女性――燈茉が顔を出した。
事前に知っていなければ、男性と間違えてしまうかもしれない。

「あ、えっと……先日のチョコのお返しに…」

そう言って、小袋を差し出すフェンネル。
ドアは開ききらずに、僅かに中が窺えるのみだ。

「それは…わざわざ、ありがとう。本来なら、茶でも馳走すべきなんだろうが……」
「あ、いえいえ!そんな……」
「その……聊か取り込んでいてな」
「どうぞ、気にしないで♪それに、他の人の所にも行かないとならないから」
「すまん。では、な」
「あ、はい。失礼します……」

ドアが閉じられる直前にフェンネルが見たものは。
鍋と付近にこぼれている真っ黒に焦げ付いたような謎の物体。
燈茉が作った料理なのだろうか?それとも何かの薬品か?
ナイフやフォークも散乱しているのが見えた。
ということは、料理なのだろうか。
子供が砂場で作る泥団子みたいなものだったが。
……フェンネルは考えるのをやめ、あてのない彷徨いを再開した。


■とある座敷にて(セレスタさん)

WANDERERのメンバーが集まる場所。
フェンネルはそこを目指した。
真っ先に思いついても良さそうなものだが。
つい忘れていた。
で、思い出したが吉日!とばかりにそこに向かっている。

「あれ?意外と……静かだ」

到着したものの、あたりは静まり返っている。
そして、見慣れない座敷セット。

「なんだ…これ?」

ずいぶんと大掛かりなセットだ。
中央付近に座布団とピコピコハンマー、ヘルメット。

「おぉ、フェンネル!ちょうど良いところに」
「え、な、何……かな?」

声の主は、竜の少女――セレスタ。
不吉な予感がした。
今すぐ立ち去った方が良いという警鐘が鳴り響いているような……。

「クニー達がこれで遊んでいたのだ!」

セレスタが座敷セットを指差しながら説明する。
とても良い笑顔で。

「へ、へぇ…」
「フェンネル一緒に遊ぶのだ!きっと楽しいぞ!」

セレスタは見ていたまんまフェンネルに説明した。
どうやら、じゃんけんをして勝ったら殴り、負けたらヘルメットで守る。
守るのが遅れて、頭を叩かれた負けのようだ。
簡単明瞭。戦闘(?)準備も整った。

「わたちは全力でいくぞ!」
「どうぞ♪」

じゃんけんが始まりの合図。
フェンネルはヘルメットに手を伸ばしつつ、回避行動を。
フェンネルの鼻先を刀が掠め、前髪が僅かに切り飛ばされる。

「ちょ!まっ……」
「フェンネル!避けてはダメなのだ!反則だぞ!」

避けちゃダメって、それなんて鏡花水月殺し。
いや、そもそもピコピコハンマーは?

「さ、仕切り直しなのだ」

殺られる!
そう直感したフェンネルは、慌てて小袋を差し出す。

「そ、そ、そんなことより!こ、これ!」
「なんなのだ?」
「チョコ(?)のお礼……」
「ウヌ、そうか。ありがとうなのだ!」
「どういたしまして!じゃ、そういうことで!」

フェンネルはしゅたっと手を上げて挨拶に変えるとそのまま逃げ出した。

「上手く逃げたようじゃな……」

サイハがぽつりと呟いた。


■花畑(?)にて(ブランさん)

「あ、あれは!」

きらきらしていて、びよーんびよーんしているもの。
それを目にするや周囲を窺う、トラがココに。
誰も見てないと確信するや、すかさず飛び掛り――じゃれている。
きらきらしていて、びよーんびよーんしているもの。
それは、キレイにカラーリングされた、バネ。
誰かが捨てていったものだろうか。

「にゃ、にゃーーーーっ!!うにゃうにゃぁあーーっ!!」

トラは夢中だ。
大きな体をぐるんぐるんさせて。
とても幸せそう。

「うにゃにゃっ……」

トラは大きく伸び上がって、そこで止まった。
視線に気付いたのだ。
すぐ近くまで。

「やぁ、ブランさん。楽しそうだね♪」

フェンネルは、トラ――ブランに声を掛けた。

「うんっ、楽しいよ!」

ブランは元気よく答えた。

「実はブランさんを探していたんだ」
「私を?」

小さく首を傾げるブラン。
フェンネルはそのブランの目の前に小袋を差し出した。

「はい、チョコのお返し♪」
「わ!すごい!ふふ、うれしいねぇ!どうもありがとう!」

ブランは目を細めて嬉しそうに笑った。
しっぽもぷらぷら揺れている。

「喜んでもらえてよかった♪」
「えへへ…」
「じゃあ、僕はもう少し回るところがあるから」
「うん、気を付けてね」
「ブランさんも、転がり過ぎないように」

困ったような、照れたような笑みを浮かべるブラン。
彼の頭を軽く撫でて、フェンネルはもと来た道を引き返していった。


■オープンカフェにて(ルビーさん)

既に日も暮れかかっているような時刻。
このあたりには飲食店も数多い。

「この時間なら…ひょっとして……」

ケーキセットから定食まで多種多様なメニューが揃った、最近人気のオープンカフェの店。
島に集まる冒険者――老若男女を問わずに幅広く利用されているらしい。
昼間は陽気なお食事処。
しかし夜になると、ちょっとしたレストランバーの雰囲気を醸し出す。
フェンネルの読みは当たった。
本を片手に優雅にカップを傾ける女性――ルビィラがそこにいた。

「ルビーさん!」

フェンネルはルビィラに声を掛け近付いた。
ルビィラは本から視線を外しフェンネルに目を向ける。

「あら、フェンネルさん。御機嫌よう」
「よかった、見つけられた……」
「あらまぁ、探し物?」
「えぇ、ルビーさんを探していて…」
「私を?」

ルビィラは読みかけの本を閉じて、改めてフェンネルに向き直る。
フェンネルはルビィラの近くで膝を突いた。

「ほら、先日チョコを頂いたんで。そのお礼に……」

ごそごそと小袋を取り出し、テーブルの上にそっと置いた。

「あぁ!」

ルビィラが、ぽむと手を打った。

「ふふふ、あの時はちょっと失敗しちゃったたね」
「いえいえ♪アレはアレで……運試しみたいでよかったんじゃないですか?」
「褒めても何も出ないわよ?」

照れたように笑うルビィラ。

「それはそうと、わざわざありがとう。凄く嬉しいわ」
「いえ、こちらこそ♪じゃあ、このへんで……」
「あら、もう?」
「えぇ、他にも回らないとならないんで……」
「あらあら、頑張ってね」

立ち上がり一礼すると、その場を立ち去った。
残り、ひとつだ。


■どこかの野営地にて(ハーヌさん)

すっかり日も暮れている。
足取りも重い。

「あとは、ハーヌさんだけだ」

ハーヌの居場所はなんとなくわかる。
あの賑やかな集団が目立たないわけがない。
そして、ついに見つけた。
当のハーヌは火の番をしている。

「ハーヌさん♪」

軽く呼びかけたつもりだったが、ハーヌはぎょっとしたように立ち上がった。

「な、ななな、な、なんの用だ!」
「そんな、警戒しないでくださいよ」

フェンネルは小袋をひとつ差し出した。

「先日のチョコのお礼です……」

ハーヌは身構えている。
隙を見せるつもりはないらしい。

「どちらも美味しかったですよ。既製品も、ハーヌさんの手作りも」
「からかうのは止めてくれ……あんな形だったのに……」
「まま、良いじゃない♪はい、どうぞ♪」
「ん、まぁ……なんだか申し訳ないが、ありがたく頂くことにしよう」

ハーヌの気が緩んだ隙を、フェンネルは見逃さなかった。
次の瞬間には間合いを一気に詰める。
目を上げたハーヌの鼓動が跳ね上がる。
超至近距離。それこそ、息がかかるほどの距離だ。
フェンネルの指がハーヌの前髪をゆっくりと優しく梳いた。
現れた白い額をフェンネルはじっと見つめる。

「消えたみたい…だね……」
「………………い…や…………な、何?」

真っ赤になって固まったままのハーヌが、フェンネルに聞き返す。
声が心なしか震えている。

「え、だから……額の文字。消えたみたいだね……って」
「なっ!?何で知って…」

先程とは違う赤みが差している。
声の震えもあるのだが、先程とはやはり少し違うような……。

「いや、有名ですよ♪額に肉という字を書いてみんなに見せて回っていたと」
「そ、それは!」
「しかも、かなりはしゃぎ回っていたとか……」

プチ、という音が聞こえた気がした。
気のせいだと思いたい。

「フェーーーンーーーーネルゥゥゥウウウウウウ!!!!1!!」

原爆固めをくらったときの記憶が蘇る。
また投げられてしまう…とフェンネルも身を硬くする。

「お前という奴はああああ!!」

ハーヌがフェンネルに掴みかかる!
いや、これはチャンスかもしれない、とフェンネルは咄嗟に思いついた。

「僕も……ハーヌさんの…こと……が…」
「お、おま、おおおまおまおま……!!お前はああああ!!!!!」
「へ、あ、アレ?」

フェンネルは「ガンスティンガーしてお返ししようかと」と言おうと思ったのかどうか。
なんにせよ、ハーヌの言葉によりその言葉は最後まで聞けずじまい。
ハーヌがフェンネルを吹っ飛ばすと……――二人の追いかけっこが始まった。
必死で逃げるフェンネル。
修羅の形相で追いかけるハーヌ。

「何をやってるんですか……あのバカどもは…」

レイルが冷たく言い放った。

 

 

「やっと終わった……」

配り終えたフェンネルはコンビニに戻ってきた。
カウンターに突っ伏すように座る。

「お腹すいた……確かプリンがあったなぁ」

しかし、取りに動くこともなく。
いつしか、フェンネルの肩は規則的に上下する。
静かに。ゆっくりと。
寝息へと変わる。

 

 

その姿を店の外から窺っていた人物がいた。

「流石に疲れているようね」
「栄養ドリンクの出番ですね」
「Mr.クラッティ……」
「ん?ステラさん……どうしました?」

無言のステラと笑顔のクラッティ。
いつもどおりだ。
そして、店内では――

「…………実は……僕も…………プリンうまい…」

どうやら寝言のようだ。
そのフェンネルのすぐ横で、ちっこい人形は余った小袋を開けていた。
それは、みんなに配ったものとまったく同じもの。
取り出したのは、クッキーと黒い何か。
クッキーは所々星の形に型抜きされ、キャンディーがキラキラと輝いている。
ちっこい人形は、黒い何かを丁寧に口元に運ぶ。

「店長!!髭でつか!」

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